鍛治師とシャーマン集団の実利一体の詐術

ミルチャ・エリアーデの「鍛冶師と錬金術師」によると

「鍛冶師とシャーマンは同じ巣からやってくる」「最初の鍛冶師とシャーマンと陶工は血の兄弟だった」「鍛冶師が最年長で、シャーマンが間に生まれた」と、

鍛冶師集団とシャーマン集団は同じ部族の枝分かれであると分析している。

勿論、鉄器文明のみがシャーマニズムの起こりとはいえない。

壮大な石器文明ともいうべきエジプト等では、

鉄器文明以前から神官が存在する。

ウォルター・クライン、ヘルマン・バウマンの調査を踏まえて、

浅井氏は以下のように、鍛冶師・シャーマン集団について述べている。

① 鉄器文明以前に存在したエジプト文明などの影響を受けた地域では、鉄器も実用文化の一つに過ぎず、鍛冶集団は蔑視され、放浪部族となるしかなかった。

② 他方、青銅器、鉄器時代以降に文明が発達した地域では、鍛冶師は創造神の共同作業者と位置づけられており、金属技術だけでなく、医術、家畜技術等を共に携えてきた英雄、聖人であった。

そして、日本は当然、後者にあたり、

ニギハヤヒ、そしてニニギといった鍛冶=シャーマン集団は、

北方アジアの鍛冶集団の流れを汲むものと考えられる。

では、北方アジアの鍛冶集団はどのような性格を持った集団だったのだろうか?

北方アジア、シベリアは過疎地であり、鍛冶は定住集団としては成り立たなかった。

そこで村々をまわる「渡り」の鍛冶師が登場した。

しかし、それだけでも生計は苦しく、村々をたずねては先端技術・鍛冶を神秘化し、

病気治療や未来予言などのシャーマンとしての儀礼を行った。

鍛冶師は、鉱物資源の探索者でもあり、同時に薬草の探索者でもあったからだ。

そして有望な土地を見つけては一族郎党を呼び寄せ、その地を神の地として占拠してしまうことを行った。

彼らは自ら「大麻などの幻覚薬草」を利用して擬似トランス状態を作り出してみせて、現住民たちを巻き込んでいった。

生存圧力の低下によって既に、トランス回路の衰弱していた原住民たちは、

幻想薬草にもとずく詐術を見破ることは出来ず、

同時に、薬草の類の実質的な医術をセットにされると彼らの詐術を神技と崇めることになる。

勿論、シャーマンの儀式が種明かしのある詐術であることは、

鍛冶師たちにはお見通しのことであって、

北方部族ドルガン族に「シャーマンは鍛冶師の死を引き起こせない」という諺があるのは、

鍛冶師たちにはお見通しだからである。

こうして、鍛冶師=シャーマン集団の実利一体の詐術に原住民たちは巻き込まれていった。

後に、秦氏一族などが、良質な銅山である香春岳に神社をたてて、移り住んできたシステムと同じである。


古代製鉄物語 (浅井壮一郎)より